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フローズン カクテル

♪ ネンネ (クリスマス・イブ 前編)

♪ ネンネ (クリスマス・イブ 前編)

4月の絵画館前は、若いカップルや家族連れで にぎわっていた。

写生をする女性もいれば、座り込み"路上ライブ"を行う青年もいる。

健康な人々に混じって、ナースに車椅子を押され散歩を楽しむ老人の姿も見られる。

「 ウチの大学病院の患者さんかしら... 」と、祥子は思った。

"病院"と思った瞬間、祥子はK市の医療センターで医局長をしている
"おにぃちゃんのお兄ちゃん"が脳裏をかすめた。

祥子にとって、おにぃちゃんとは、ボクのコトを言い、
おにぃちゃんのお兄ちゃんとは、ボクの兄を指した。

大学時代、ひょんなキッカケから、家庭教師をヤルはめに成った。
秋葉原に在る、結構大きな電気屋さんのお嬢さんだった。

目が大きくて、中2のわりには、少し大人びていた。

名前は" 祥子 "といい、勝気なカノジョにピッタリの名前に思えた。

ボクは、カノジョにも、カノジョの両親にも気に入られて、
初め週1回の約束で始めた家庭教師だったが
いつの間にか 週3回に増えていた。

そればかりでなく、カノジョの両親は、ボクを信頼しきったのか、
カノジョのボーイフレンド兼ガードマンとして、映画や展覧会、家族旅行と
カノジョの外出する時は、公認で一緒に出かけさせる事が多かった。

ボクは、束縛されることが苦手なので、それには抵抗があったが、
祥子の 大きな瞳で 「おにぃちゃん」「おにぃちゃん」と呼ばれると
つい、言う事をきいてしまった。



当時、日本には救急指定病院は有っても、
現在のような救命救急センターはなかった。

日本にも救命救急の必要性が叫ばれ始めた頃、
兄の大学病院も本格的に救命救急センター設立に乗り出していた。
救命救急設立プロジェクトが置かれ、
胸部外科からは、心臓専門医の兄がピックアップされていた。


アメリカで研修を終えた兄が帰国して、ホームパーティを開いた。
その時、ボクは祥子を同伴した。
それが、祥子と兄の出会いだった。

その日から、若くて優秀な心臓外科医のボクの兄は 『おにぃちゃんの
お兄ちゃん』と 俗っぽく呼ばれるようになってしまった。



「 ...ーこ、 ...ょーこ...、  おい! 祥子ってば! 」

大学生らしい男の子が、祥子に怒鳴った。

白昼夢の中にいた祥子は、いきなり現実に戻された。

「 おい! 祥子  いったいどうしたんだよぉ! 」

今までケンカをしていた事も忘れて、男の子が祥子の肩を揺する。

『 放して! 』

祥子は イヤイヤをして男の子の手をほどくと、2、3歩後ずさりした。

『 もう止めよう! あたしたち やっぱり無理だよ! 』

祥子の声が高くなった。

家族連れや恋人達が、一瞬 振り返る。
周囲を気にして、男の子は 一生懸命 トリツクロイを始める。
祥子は、爆発した感情を抑えきれずに 泣き叫ぶ...

ひととおり叫んだ後、祥子は 急に悲しくなった。
涙があふれるのが わかった。


好きだった。

サークルの歓迎コンパで親しくなった男の子だった。

三田の女子部からエスカレーターで進学した祥子と
志木にある男子部から上がって来た男の子。

お酒も手伝って、二人はひと晩で 恋に落ちた。

祥子にとっても、男の子にとっても、初めての 恋だった...


祥子は大好きな おにぃちゃんにも相談に来た。
3人で一緒に夕食を食べた。
ボクは、おにぃちゃんとして 二人を祝福した...

ボクのボーイフレンド兼ボディーガードの役目は、消滅していた。


若く、背伸びをした恋だったのだろう...
二人は いつからか、歯車が合わなくなっていた。

今日も、青山2丁目から並木道を通り、 絵画館まで、
デートの間中ずっと ケンカの連続であった。


『 どうして... ? 』
『 好きなのに...  』

自問を続けるうちに、また 悲しくなった...

あんなにシアワセだった自分達が
好奇の目にさらされてる事も悲しかった。

トリツクロウ彼が、急に 嫌い! に見えた。

何か話しているようだが、何も 聞こえない!
サイレント映画のワンシーンが、スローモーションで流れて行く。

口だけが パクパクして、気持ちの悪いエイリアンのようだ...
気が付くと、エイリアンのホホに 平手打ちを していた。



ー★ー☆ー★ー☆ー★ー☆ー★ー


オフィスの電話が鳴った。

社会人2年目!

ボクは、海老名にある新設の総合病院の一室を専用オフィスに変えて、
書類に目を通していた。

『 ハ~イ[m:46] 』   相手は祥子だった。

『 会・い・た・い・なぁ~[m:46]  』

甘えた声で、大学2年生の祥子が ねだった。

『 おにぃちゃん...あたし 死んだら 悲しぃ...? 』

笑い声の会話の中で、ウソか本当か...?
祥子の声が乾いて響いた...



厚木インターから 東名~首都高で 外苑前まで、
リミッターをはずした ボクのBMWは、30分もかからなかった。

祥子は、黒の遊び着のスーツを上手く着こなし、軽く手を振った。
エルメスの留め金の金色が、夕陽の中で 異様に光っていた。

DJテントン ネンネ BMW.jpg

♪ 相談なんて 言い訳だね
  ボクの車は ステキかい?

  とばそうか...?  このまま...
        
  知らない都会(まち)の港まで

  よぎるのは、最後に アイツに投げたセリフかい?

  今はただ、君のために イイ兄貴でも演じるよ

  妬けちゃうな!  あんなヤツに...
  
  泣くなんて!   せつないな...

  背伸びしてた 君の涙...  まだまだネンネだね...


♪ 髪をかき上げ 視線(め)をそらす
               
  似合いの黒に 光が飛んで にじむ...

  涙なの?  見ないよ!

  煙草のせいに してイイよ

  そんなスネタ横顔...  

  唇が やけに光っているよ...
                 
  今は ただ、ボクの照らす Head Light (あかり)だけを 見つめてよ...

  震えてるね...  寒いのかい?

  恐いのかい?  ...オカシイな...

  君がどんなに 突っ張ってても  まだまだネンネだね...


♪ とても静かな港だね  船の灯りが 瞳の奥で 誘う...
                       
  肩抱いて このまま...  

  知らない世界(くに)へ 連れて行くよ...

  逃げないね...  こんなに...  

  胸の高鳴りが 君に わかるかい?

  今は もう... 

  ボクと二人きりさ  朝まで旅に出よう

  微笑んで見つめないで...  シャンプーの香りがする...

  指に絡む 細い髪も...    まだまだネンネだね...

  ネンネ おやすみよ...   ネンネ ボクの胸で...
  
  ネンネ 可愛いよ...    ネンネ キミが 好きさ...  ♪


            Music & word by DJテントン 『 ネンネ 』